なんだか遅くなってしまいましたわ。桜井玲奈は久しぶりに遅くに更衣室のドアを開ける。そして、そこから薄らと聞こえる賑やかな声に首を傾げながらドアを開いた。
あら!皆様揃ってどうしたのかしら?
桜井ちゃんお疲れ様。こんな遅くまで珍しいね。
おー!オモロイ姉ちゃんやんか!久しぶりやなぁ!病棟違うと同期でも全然会わへんもんやななぁ。
あっ玲奈ちゃん!ふふふ!実は秘密の勉強会っす!今日のテーマは栄養についてっすよー。良ければ一緒に勉強するっす!
何と感心ですわね。と桜井は上代葉月と白波百合を見てふむと顎先に手を当てる。そして自分を何故かオモロイ姉ちゃんと呼ぶ坪井咲夜の発言は聞かなかったことにした。
あら!それは感心ですわ!ちょうど勉強している分野ですの。ご一緒しても宜しいかしら?
もちろんっすよー!今日はhayato先生の【データからみる栄養の重要さ】って記事を読みながら、みんなで勉強しているっす!
そうそう。教科書だけでなく色んな人の考え方を知ろうっていうコンセプトの勉強会なんだよ。
せやせや!すっごい勉強になるねんで!それに今回はリハ栄養って言葉がメジャーになるくらいに有名な分野やしな!
他の三人と休憩室の丸テーブルに腰をかけて、白波のスマートフォンを覗き込む。確かな科学的根拠に基づいた実体験に基づく内容の記事は、確かに教科書を読むより頭に入りやすい。難しい分野なのに流石ですわ。と感嘆の声を漏らす。
確かに私たち回復期病棟でリハビリをしていると痩せている方も目立ちますもの。それに回復期病棟は回復している人ではなく、更に回復する事が必要になった方の病棟とも言えますものね。
確かにそうだね。元々低栄養で受傷して更に低栄養になる。でもこんなしっかりとしたデータを目の当たりにしてしまうと、やっぱり大変な事だと思うよね。本当によく患者様の現状の問題を解決しようと頑張っておられる先生だね!
ホンマそれ!それに移動が安全に出来るかよりも、十分に栄養が摂取できるかという事も自宅に帰れるかの判断基準になるしな。出来ひんとやっぱり自宅に帰るのは難しいってなってまうもんな。いっつも言語聴覚士さんに任せてしまうからな・・・それに他分野の事をしっかりと勉強して、それでいて自身の専門性を生かせるってホンマ格好ええな!
本当にそうっすよねぇー!それは自分らの急性期も同じっすよー!必要だと感じていてもやっぱ入院する原因には、それなりの栄養状態の低下もあるっすから。これからの課題っすね!それに他にもオンラインセミナーもやっておられるみたいっすから!Twitterも要チェックっすね!
なるほどですわと桜井は三人を見る。一年目の最初の頃しか関わりは無かったのだけど、これほど頼もしくなるのはやはりこの勉強会のお陰かしらと思う。
そして白波がホームページから様々な記事を紹介する。そこには嚥下を愛する理学療法士らしく十分な栄養摂取を行うための知識から、よくある高齢者の疾患にまでこれからの社会に必要な事が様々に書かれている。これは本当に教科書よりもよく出来ていますわと桜井もため息すら出ない。
とにかくしっかりとご飯を食べないと痩せてしまうっすからね!うちらも日頃から気を付けて、それを臨床に生かせる様に頑張るっす!
そうだね。忙しくていつもみたいに沢山食べれないと、私達もすぐに痩せちゃうから・・・頑張ろうね!
・・・・ほぉ・・・太る事なんかと無関係な星の人達が、なにやらお気楽発言をしてはるわぁ・・・なぁ・・・玲奈はん・・・
あらあら本当ですわねぇ・・・年頃の乙女を何だと思っているのかしらねぇ・・・咲夜さん・・・
バタバタと再び賑やかになり始めた休憩室。上代の額を何度も突く坪井の横で、白波のほっぺたを引っ張りながら桜井は、こんな勉強会も良いものですわね。そう考えた。
【これまでのあらすじ】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【これまでの話 その①】
【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】
tanakanの他の作品はこちらから
【廻り巡る】一人目の告白はこちらから
コメント